”走るお坊さん”に聞いてみた!宿坊ってどんなところ?  ー善光寺 徳寿院 住職 清水雄介さんー

”宿坊”はハードルが高い?ごしゅメモ的寺泊デビューのすヽめ

12月初旬、芯から凍えるような寒さのせまる信州。

来山したのは善光寺にある三十九の宿坊が一寺、徳寿院さん。

「いつか宿坊に泊まってみたい」

そんなわたしの願いを近いうちに叶えてくれることになりそう。しかし、わたしのような宿坊未体験者にとって、はじめの一歩は勇気がいるもの。若者が行っても浮かないだろうか、宿坊に行ったら何をすればいいのか、禁止事項などあるのだろうか。

そもそも、「宿坊」ってどんなところだろうか?

 

信州の社寺に関わる”ヒト”を訪ねる企画、ごしゅビトめぐりの第1回。

(詳しくはこちら→【ごしゅビトめぐり】ごしゅメモが気になった神社やお寺の”ひと”を取材する企画、始めます!

 

お話を伺ったのは徳寿院の清水雄介(しみず ゆうかい)住職。

「宿坊ってどんなところ?」「善光寺ってどんなところ?」などなど、素朴な疑問をぶつけてきた。

 

善光寺の宿坊、徳寿院(とくじゅいん)とは?

善光寺門前の北西エリア、阿闍梨池通りにある徳寿院(とくじゅいん)

善光寺は無宗派だが、天台宗の大勧進と浄土宗の大本願がある。宿坊はそれぞれ天台宗か浄土宗に属しており、徳寿院は天台宗の宿坊。

 

宿坊とは?宿坊とは、全国各地から訪れる参拝客のために作られた宿泊施設
昔は善光寺の本堂の中でお籠もり(寝泊まり)して朝のお勤め(お朝事)を参拝する人々が多かったが、明治時代頃に本堂でのお籠もりが禁止されたために宿坊に泊まるようになったのだそう。

 

徳寿院の基本情報

ご本尊 文殊菩薩
宗派 天台宗
札所 なし
所在地 長野市長野元善町494
電話番号 026-232-2376
拝観時間 なし(御朱印は書き置きもあり)
部屋数 個室6部屋、大広間1部屋
料金 大人1人9,000円(2名さま〜)
備考 11月下旬〜3月下旬までは宿泊NG

 

徳寿院は、瓦のネコが目じるし

瓦の上で寝ている猫が目印。

清水住職:この辺りはなんども火災に遭っています。その度に少しずつ再建され建て増しされているんですね。この猫は、最近行った屋根の修繕工事をしている時に棟梁が何故か持ってきたものなんですよ。気付かれない方も多いんですけどね。

撮影中何気なく見つけた隠れ猫、小さな発見にわたしのテンションも上がる。

 

ーー眠り猫といえば、先日日光東照宮でも見たような?

 

清水住職:あれは確か、ネコが眠るほど平和だとか、護り猫って意味でしたよね。うちの猫は、どういう意味なんでしょう?

 

立ち止まったり、笑顔になったり、会話のネタになったり。徳寿院の眠り猫にはたくさんの意味が込められていそう。

 

お話をお聞きした清水雄介(ゆうかい)住職

今回は、精悍な顔立ちに坊主頭がよく似合う清水住職にお話をお伺いした。住職としてのお役目を果たしながら、依頼されればボランティアで善光寺のご案内をすることもある。

どう見ても立派なご住職にしか見えなかったが、清水さんにはもうひとつのお顔がある。

 

”お坊さん” 兼 “マラソンランナー”

いただいた写真は、思わず「本当に同一人物ですか?」と聞きたくなる凛々しいお姿。

お朝事の前、毎朝4時には走りに出るという清水住職。平成21年の長野マラソンをきっかけにマラソンやトレイルランを始め、年に5回ほどのペースでレースに参加している。

 

走っていると、信州のいいところが見えてくる

 

ーー走っている時は、どんなことを考えているんですか?

 

清水住職:走っていると五感が研ぎ澄まされて、いろんなものが見えてくるんです。信州は、四季がはっきりしているところが良いですよね。今だったら、朝パリッと張り詰めたような寒さと朝靄、山に雪がかかっている様子なんかで冬を感じることができます。

先日は善光寺から犀川を超えて丹波島宿のあたりを走っていたんですけど、街並みに宿場時代の面影が見られて感心しました。こういうのって、走っている時だからこそ見つけられる発見だなあと思います。

 

ーーなるほど、走るお坊さんならではの目線で信州を見ていらっしゃるんですね。

 

清水住職:ボランティアで善光寺の参拝案内をしているのも、そんな信州や善光寺の良さを、もっといろんな方に知っていただきたい思いがあるからです。

 

宿坊ってどんなところ?

今回はながのローカルインターンの一貫として、大学生に混じって宿坊の中や善光寺を案内していただいた。

 

まずは2階へ。お部屋は全7部屋、そのうち1部屋は大広間。

 

かつて、善光寺参りは人生の一大イベントだった。

遠くは岡山県から、善光寺に続く道標が現存しているという。今でこそ車や電車でいつでも来られてしまう善光寺だが、昔は「一生に一度は善光寺詣り」の言葉通り、一度で良いから参拝したいあこがれの場所だったのだ。そのため大勢でツアーを組んで訪れる参拝客も多かった。

 

清水住職:最近はみなさん、なかなか団体行動なんてしないでしょう。でも昔はみなさん大人数で行動されることが多かったんです。今はイベントごとに使うことが多いですね。講演会やヨガ教室など、何か依頼があればお貸しすることもできます。

 

大人数の場合貸切になり、大広間からさらに部屋を2つ繋げて食事をとっていたのだとか。

清水住職:よく見ると、この辺りで造られた年代がかなり異なるんです。ほら、木の色が違うでしょう?こうして少しずつ建て増しされているんですね。

 

見学は11月だったが、床は少し冷たく感じた。

 

徳寿院に宿泊できるのは、雪もない4月〜11月頃の間だけ。

 

 

清水住職:あんまり寒い冬には宿泊を受け付けていません。もちろん参拝のご案内や御朱印は冬でも承っていますよ。2月には灯明まつりもあり、夜までお堂を解放しています。

 

ーーそういえば、ご本尊の文殊菩薩さまは撮影・掲載OKなんですよね。昨年(2016年灯明まつり)初めて参拝してびっくりしました。

 

清水住職:撮影して拝んでいただくこともご縁だと思っています。みなさんに拝んでいただけると嬉しいので、どんどん撮ってください。

 

宿坊で過ごす時間は”特別”。大切な人を想う時間にしてほしい

チェックインを済ませ、宿坊で夕飯をいただく。

清水住職曰く「美味しいもの」はお金を払えばいくらでも食べられる。しかし「美味しく、ものを食べる」経験はお金を払っただけではできません、と。

今まで気にしなかったこと、ひとつひとつに小さな”気づき”を与えてくれる。宿坊って、不思議な場所だ。

 

ーー夕飯を食べてお風呂に入って、その後何かすることはあるんですか?

 

清水住職:基本的にはありません。中には写経や座禅ができる宿坊さんもありますが、当院では「宿坊に泊まる」ことが大切なので。徳寿院の御本尊はすぐ隣のお堂にあります。またここには善光寺さんがすぐ近くにあって、周辺三十九の宿坊にもそれぞれ仏さんがいらっしゃいますよね。それだけたくさんの仏さんの近くにいられる場所ってなかなかないと思いますよ。

また、善光寺の本堂は極楽浄土へ通じているといわれています。善光寺や仏さんのすぐお隣で泊まることは、それだけ亡くなった方のそばいられることになるのです。善光寺の宿坊は、大切な方に会いに来られる場所。何をするわけではないけれど、こうして亡くなった方や仏さんのおそばによって、そうして静かに思い出す時間にしてください。

慰安旅行で来る方たちは、大切な人を送った経験のある方もたくさんいらっしゃいます。こうやってお話すると、泣いて頷かれる方も結構いらっしゃるんですよ。

 

ーーわたしも泣きそうです(笑)そして、宿坊の意味や泊まりにいらっしゃる方々の思いが分かってきた気がします。

 

善光寺には「塀」がない。宗派も性別も国すら超えた「庶民のお寺さん」

宿坊の案内を終え、一行は門前町を歩いて善光寺の本堂へ。

 

清水住職善光寺には「塀」がないんです。だから24時間いつでも入れるし、通学路や通勤路にもなる。全国でもこれだけ大きなお寺が「善光寺さん」と親しげに呼ばれているのは、珍しいことだそうですよ。善光寺は宗派もない、庶民のお寺なんです。

善光寺の門前には三十九の宿坊がある。つまり、三十九の仏さんが並んでいらっしゃるということなんです。ここに住んでいる人たちは、そんな道を毎日通る。よく考えると、これってすごいことなんじゃないかな。こんなにありがたい通りはなかなかありませんよ。

 

女人禁制のお寺も多い中、善光寺は日本最古にしてすべての人々を救う「拠り所」であり続けた。

 

善光寺の御本尊は絶対秘仏。見えないから想うしかないっていうのは、亡くなった方に似ている。

今回は長野市と善光寺に許可をいただき、プレスパスを使って本堂内で撮影した。

 

「この鏡は嘘偽りを取り除いた姿が見えるといわれています。のぞいて見てください、本当の自分の姿が見えますよ。」と清水住職。

 

 

清水住職善光寺のご本尊は絶対秘仏。誰もそのお姿を目の当たりにすることはできません。見えないから想い馳せるしかない。これって、亡くなった方と同じなんです。見えないけれど、想うことはできる。

 

見えないけど、想うことはできる。鏡の前で聞いたお話は、善光寺のあり方を表しているように思えた。

 

宿坊とはただ「お寺に泊まる」のではなく、仏さんの近くに寄るということ。亡くなった大切な人のそばに戻るということ。

 

住職のお話を直接聞ける機会も滅多にあるものではない。まだ未体験のわたしが言っても説得力はないが、若い方にこそ「宿坊に泊まる」経験をしてほしい。それが”小さな気づき”のきっかけになるかもしれないから。

なんとなくハードルが高いと感じている方は、まず徳寿院の清水住職にお声がけてしみてはどうだろうか?

 

2018/01/20

 

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信州さーもん

長野県観光メディア「Skima信州(@skima_shinshu )」神社・お寺と御朱印ブログ「ごしゅメモ(http://goshumemo.com )」「旅する鮭朝」とかやってる平成生まれの魚。兵庫県出身信州在住。一本桜、宿場と街道、滝、地名、温泉、御朱印、ダムカード。長野の観光に関するお仕事、お待ちしています!